Windows 11にアップグレードしてから、スタートメニューに見慣れない「ターミナル」というアプリがあることに気づいた方もいるかもしれません。
「Microsoftのターミナルとは一体何なのか?」「従来のコマンドプロンプトとの違いが分からない」といった疑問や、このアプリは本当に必要なのかという不安を感じていませんか。
また、基本的な使い方や開き方が分からなかったり、PCを起動するたびに勝手に起動する問題に悩まされたりすることもあるでしょう。
さらに、右クリックメニューに表示される「ターミナルで開くとは」どういう意味なのか、そもそもターミナルを開くとどうなるのか、初心者にとっては分からないことだらけかもしれません。
この記事では、そうした一つひとつの疑問に丁寧にお答えし、Windows ターミナルの全体像が明確に理解できるよう、基本から分かりやすく解説していきます。
初心者向けにMicrosoftのターミナルとは何かを解説
- コマンドプロンプトとの違いを解説
- ターミナルを開くとどうなる?
- 複数のシェルをタブで一元管理
- GPUによる高速なテキスト描画
- デザインも自由にカスタマイズ可能
コマンドプロンプトとの違いを解説

Windows ターミナルとコマンドプロンプトの最も大きな違いは、その役割にあります。
端的に言うと、Windows ターミナルは複数のコマンドラインツールをまとめて管理するための「器(うつわ)」や「ホストアプリケーション」であり、コマンドプロンプトはその器の中で動作する「ツール(シェル)」の一つです。
これまでのWindowsでは、コマンドプロンプトやPowerShellといったツールは、それぞれが独立したウィンドウで起動するのが当たり前でした。
しかし、Windows ターミナルを使えば、これらを一つのウィンドウ内にタブとして並べて表示させ、同時に操作できます。
この根本的な役割の違いから、機能面でも多くの差が生まれます。
以下の表で主な違いをご確認ください。
機能 | Windows ターミナル | コマンド プロンプト (従来) |
タブ機能 | ◯ (複数のシェルをタブで管理) | × (単一のウィンドウのみ) |
複数シェル対応 | ◯ (PowerShell, WSL, Azureなど) | × (コマンドプロンプトのみ) |
カスタマイズ性 | ◎ (背景画像, 配色, 透明度など) | △ (フォントと色など限定的) |
テキスト描画 | GPUアクセラレーションによる高速描画 | 標準のGDIによる描画 |
Unicode対応 | ◎ (絵文字や特殊記号も表示可能) | ◯ (限定的に対応) |
このように、Windows ターミナルは、従来のコマンドプロンプトが持っていた機能をすべて内包しつつ、現代的な開発や運用作業の効率を大幅に向上させるための多くの新機能が追加された、より高機能なツールであると理解できます。
ターミナルを開くとどうなる?

Windows ターミナルを初めて起動すると、通常は「Windows PowerShell」の画面が表示されます。
これは、ターミナルがあらかじめ設定された「既定のプロファイル」を自動的に読み込んで起動する仕組みになっているためです。
プロファイルとは、特定のコマンドラインツール(シェル)を起動するための設定の集まりです。
Windows ターミナルには、最初から「Windows PowerShell」や「コマンド プロンプト」、そしてWSL(Windows Subsystem for Linux)をインストールしている場合は「Ubuntu」などのプロファイルが用意されています。
ターミナルを開いた際に、いつもコマンドプロンプトを起動したい、あるいは別のシェルを起動したいと考える場合、この既定のプロファイルを変更することが可能です。
既定プロファイルの変更方法
- ターミナルウィンドウの上部にある下向き矢印(∨)をクリックし、メニューから「設定」を選択します。(ショートカットキー:
Ctrl
+,
) - 設定画面の左側メニューから「スタートアップ」を選びます。
- 「既定のプロファイル」というドロップダウンリストから、普段最もよく利用するシェル(例: コマンド プロンプト)を選択します。
この設定を変更すれば、次回以降ターミナルを起動した際には、指定したシェルが自動的に開くようになります。
要するに、ターミナルを開くとどうなるかは、この「既定のプロファイル」設定によって決まるということです。
複数のシェルをタブで一元管理

Windows ターミナルの最も強力な機能の一つが、複数の異なるシェル環境を一つのウィンドウ内で、タブを使って同時に管理できる点です。
これにより、作業の生産性が飛躍的に向上します。
従来、例えばPowerShellでシステムの状態を確認しながら、コマンドプロンプトで別の作業を行い、さらにWSL上のLinux環境で開発作業を進めるといった場合、3つの異なるウィンドウを開いて切り替えながら作業する必要がありました。
これは画面を煩雑にし、集中力を削ぐ原因にもなります。
一方、Windows ターミナルでは、これらすべての作業をブラウザのタブのように一つのウィンドウに集約可能です。
- 一つ目のタブで「PowerShell」
- 二つ目のタブで「コマンド プロンプト」
- 三つ目のタブで「Ubuntu (WSL)」
このように、用途に応じてタブを切り替えるだけで、異なる環境へ瞬時にアクセスできます。
新しいタブを開くには Ctrl
+ Shift
+ T
、タブ間を移動するには Ctrl
+ Tab
といったショートカットも用意されており、キーボード操作中心でスムーズな作業が可能です。
この機能は、特に複数の環境をまたいで作業を行う開発者やIT管理者にとって、非常に大きなメリットとなります。
GPUによる高速なテキスト描画

コマンドラインツールで大量の文字を一度に表示させた際、画面の表示がカクついたり、ちらついたりした経験はないでしょうか。
Windows ターミナルは、こうした従来のツールが抱えていた描画性能の問題を、GPUの活用によって根本から解決しています。
従来のCPUによる描画とその限界
これまでのコマンドプロンプトなどが利用していたコンソールホスト(conhost.exe
)は、画面に文字を描画する処理を、主にCPU(中央演算処理装置)に依存していました。
CPUはOS全体の制御や複雑な計算を担う、いわばコンピューターの「司令塔」です。
このため、大量のテキストデータ、例えばソフトウェアのコンパイル時に発生する膨大な出力や、サーバーの長大なログファイルなどを表示させようとすると、CPUの処理能力が描画に割かれ、他の重要な処理が滞る「ボトルネック」が発生することがありました。
結果として、これが画面のちらつきや描画遅延の原因となっていたのです。
GPUレンダリングという新しい解決策
一方、Windows ターミナルは、テキストの描画処理をGPU(画像処理装置)に任せるアーキテクチャを採用しています。
GPUは本来、3Dグラフィックスや映像処理といった、大量の単純な計算を並行して高速に実行することに特化した「専門家」です。
画面上の文字も一つひとつが図形データ(グリフ)であり、これを高速に配置していく作業は、GPUが最も得意とする処理と非常に相性が良いと言えます。
Windows ターミナルは、WindowsのグラフィックスAPIであるDirectWriteやDirectXを基盤とした最新のテキストレンダリングエンジンを搭載しています。
これにより、GPUの能力を直接引き出し、CPUを本来の計算処理に専念させることが可能になりました。
具体的に体感できるメリット
このGPUによる高速描画の恩恵は、様々な場面で実感できます。
- 大量のテキスト出力: パッケージマネージャーで多数のライブラリをインストールする際や、
tree
コマンドで深い階層のファイル一覧を表示する際などでも、文字がスムーズに流れていきます。 - Unicode文字の表示: 絵文字(例: ✨, 🐛)や、プログラミング用の合字(リガチャ)を含む複雑な文字の表示も、遅延なく正確に行われます。特に
Cascadia Code
のようなフォントと組み合わせると、->
が→
のように表示され、コードの可読性が向上します。
このように、単に表示が速くなるだけでなく、視覚的な快適性が向上し、作業中のストレスが軽減される点も大きなメリットです。
これは開発者の認知負荷を下げ、結果的に生産性の向上にもつながると考えられます。
注意点と異なる視点
ただし、この機能にも注意すべき点がいくつかあります。
極端に古いPCや、グラフィックドライバに問題を抱えている環境では、稀に表示が不安定になる可能性も否定できません。
また、リモートデスクトップ接続の状況によっては、GPUアクセラレーションが完全には機能しない場合もあります。
このようなケースに備え、Windows ターミナルには設定画面の「レンダリング」項目に、「ソフトウェアレンダリングを使用する」という、意図的にGPUを使わないモードへ切り替えるオプションも用意されています。
総じて、GPUによる高速描画は、Windows ターミナルを単なる「文字を表示するツール」から、「快適な作業環境を提供するプラットフォーム」へと昇華させた、非常に重要な機能であると言えるでしょう。
デザインも自由にカスタマイズ可能

Windows ターミナルは、機能面だけでなく、見た目を自分好みに細かくカスタマイズできる点も大きな魅力です。
作業環境の見た目を変更することで、モチベーションの向上にもつながります。
主なカスタマイズ項目には以下のようなものがあります。
- 背景画像と透明度: ウィンドウの背景に好きな画像(JPEG, PNG, GIFアニメーションも可)を設定したり、ウィンドウ自体を半透明(アクリル効果)にしたりできます。これにより、デスクトップの壁紙を透かして見せながら作業するといった、モダンな外観を実現可能です。
- 配色(カラースキーム): 文字色や背景色などを定義した「配色」を自由に変更できます。Solarized、Dracula、One Halfなど、多くの人気の配色が最初から用意されているほか、自分でオリジナルの配色を作成することもできます。
- フォント: 表示されるフォントの種類、サイズ、太さを自由に変更できます。特に、プログラミング用に開発されたフォント「Cascadia Code」が標準で推奨されており、
=>
や!=
といった記号を一つの文字のように表示する「合字(リガチャ)」機能にも対応しています。 - プロンプトの装飾: PowerShellやWSL環境では、「Oh My Posh」といった外部ツールと連携させることで、現在のフォルダパスやGitのブランチ情報などをグラフィカルでカラフルな表示にカスタマイズできます。
これらの設定は、設定画面のGUIから直感的に変更できるだけでなく、settings.json
というJSON形式のテキストファイルを直接編集して、より高度なカスタマイズを行うことも可能です。
Microsoftのターミナルとは?具体的な使い方と疑問
- Windows11での基本的な開き方
- 初心者が知るべき基本的な使い方
- 「ターミナルで開く」とはどういう意味か
- 勝手に起動する場合の対処法
- 一般ユーザーにインストールは必要か
- Microsoftのターミナルとは次世代ツールまとめ
Windows11での基本的な開き方

Windows 11では、Windows ターミナルが標準のコマンドラインツールとして統合されており、いくつかの簡単な方法で起動できます。
ここでは主な起動方法を3つ紹介します。
スタートメニューから起動する
最も基本的な方法です。
タスクバーのWindowsアイコン(スタートボタン)をクリックし、「すべてのアプリ」から「た」行にある「ターミナル」を探してクリックします。
また、スタートメニューを開いた直後にキーボードで「terminal」や「ターミナル」と入力して検索し、表示されたアイコンをクリックすることでも起動できます。
WinXメニュー(パワーユーザーメニュー)から起動する
より素早くアクセスする方法として、WinXメニューの利用が便利です。
タスクバーのWindowsアイコンを右クリックするか、キーボードで Windows
キー + X
を同時に押すと表示されるメニューの中に「ターミナル」および「ターミナル (管理者)」の項目があります。
管理者権限が必要な操作を行う場合は、後者を選択します。
ファイル名を指定して実行から起動する
キーボードの Windows
キー + R
を同時に押すと、「ファイル名を指定して実行」ダイアログが表示されます。
この入力ボックスに wt.exe
(Windows Terminalの実行ファイル名)と入力してEnterキーを押すことでも起動できます。
初心者が知るべき基本的な使い方

Windows ターミナルを使いこなすために、初心者がまず覚えるべき基本的な操作は「タブとペインの操作」および「テキストのコピー&ペースト」です。
これらをマスターするだけで、作業効率が大きく向上します。
タブとペインの操作
前述の通り、ターミナルでは複数のシェルをタブで開けます。
- 新しいタブを開く:
Ctrl
+Shift
+T
を押すか、タブバーの「+」ボタンをクリックします。 - 特定のプロファイルで新しいタブを開く: 下向き矢印(∨)をクリックし、リストから開きたいシェル(例: コマンド プロンプト)を選択します。
- ペイン(画面分割): 一つのタブ内をさらに分割して、複数のシェルを並べて表示できます。
Alt
+Shift
++
で横に、Alt
+Shift
+-
で縦に分割します。これは、一方の画面でコマンドの実行結果を見ながら、もう一方の画面で別のコマンドを入力する際に非常に便利です。
テキストのコピー&ペースト
従来のコマンドプロンプトとは異なり、Windows ターミナルではテキストの選択とコピー&ペーストが非常に直感的になりました。
- コピー: マウスでコピーしたいテキスト範囲をドラッグして選択し、
Ctrl
+C
を押します。(あるいは右クリックでも可) - 貼り付け:
Ctrl
+V
を押します。(あるいは右クリックでも可)
この操作は、普段使っているメモ帳やブラウザでのコピー&ペーストとほぼ同じ感覚で行えます。
インターネット上で見つけたコマンドを試す際などにも、簡単かつ正確に貼り付けができます。
「ターミナルで開く」とはどういう意味か

エクスプローラーでフォルダを右クリックした際などに表示される「ターミナルで開く」というメニューは、そのフォルダを現在の作業場所(カレントディレクトリ)として、Windows ターミナルを起動するためのショートカット機能です。
通常、コマンドラインツールを起動した直後は、ユーザーのホームディレクトリ(例: C:\Users\YourName
)から開始されます。
ここから目的のフォルダに移動するためには、cd
(Change Directory)コマンドを使って、cd C:\Work\Projects\MyProject
のようにパスを一つひとつ入力する必要があり、これは非常に手間がかかります。
しかし、「ターミナルで開く」機能を使えば、この手間を完全に省略できます。
例えば、エクスプローラーで D:\Photos\2025
というフォルダを開いている状態で、そのフォルダの何もないところを右クリックし、「ターミナルで開く」を選択すると、D:\Photos\2025>
というプロンプトでターミナルが起動し、すぐにそのフォルダ内での作業を開始できます。
この機能は、特定のフォルダ内にあるファイルに対してコマンドを実行したい場合に、目的の場所へ一瞬で移動できるため、作業の効率を大幅に高めてくれます。
勝手に起動する場合の対処法

Windowsにサインインした際に、意図しないのにWindows ターミナルが勝手に起動してしまうことがあります。
これは、ターミナルが「スタートアップアプリ」として登録されてしまっていることが主な原因です。
この設定は、いくつかの簡単な手順で無効にできます。
Windows ターミナルの設定から無効化する
最も直接的な方法です。
- Windows ターミナルを開きます。
- 設定画面を開き(
Ctrl
+,
)、左側のメニューから「スタートアップ」を選択します。 - 「コンピューターの起動時に起動します」という項目の設定を「オフ」に変更します。
タスクマネージャーから無効化する
Windowsのシステム設定からも変更が可能です。
Ctrl
+Shift
+Esc
を押してタスクマネージャーを起動します。- 左側のメニューから「スタートアップ アプリ」(フラスコのアイコン)を選択します。
- 一覧の中から「Windows Terminal」を探し、選択した状態で右クリックし、「無効化」を選択します。
多くの場合、これらのいずれかの方法で問題は解決します。
意図せずターミナルが起動して煩わしいと感じている場合は、この設定を見直してみてください。
一般ユーザーにインストールは必要か

コマンドプロンプトやPowerShellを日常的に使わない一般ユーザーにとって、Windows ターミナルは必ずしも必要なアプリではありません。
アンインストールしても、Windowsの基本的な動作に影響が出ることは全くありません。
しかし、必須ではないものの、インストールしておくと便利な場面もあります。
例えば、インターネットでPCのトラブル解決法や便利な設定方法を調べると、コマンドの実行を求められることがあります。
そのような場合に、Windows ターミナルがあれば、複数の手順を試す際にタブで管理できたり、コマンドのコピー&ペーストが容易であったりと、従来のコマンドプロンプトよりもスムーズに作業を進められます。
- メリット: CUI操作に不慣れでも、見た目がきれいでタブ機能などがあるため、比較的抵抗なく利用できる。
- デメリット: 全く使わないユーザーにとっては、スタートメニューの項目を一つ増やすだけの存在になる。
もしあなたが「PCのカスタマイズやトラブルシューティングを自分で行うことがある」あるいは「少しでもコマンドライン操作に興味がある」のであれば、Windows ターミナルは試してみる価値のある便利なツールです。
逆に、そうした操作を一切行わないのであれば、無理に使う必要はない、というのが実際のところです。